800年前の技術だけで復元中!仏中世の城、ゲドゥロン城を見に行く
「13世紀の技術だけで当時のお城を作っちゃおう!」そんなことを一人のフランス人が思い立ち、中世のお城をゼロから建築しようというプロジェクトがあります。
1997年に始まったこのプロジェクトはなんと20年経った今も現在進行形。
この現代においてあえて800年前の中世の技術と材料だけを用いてお城を新しく建てるゲドゥロン城のプロジェクトです。石、鉄、木や草などの植物など、13世紀に当時の人が入手できたであろうものだけを使いお城を作り続けています。
さらに、この中世のお城の建築過程は一般公開され、子どもから大人まで、当時のお城がどのように作られたかを見学することができます。
今回はフランス・ブルゴーニュの隠れた人気スポットであり、中世のお城を再建してしまおうと壮大な計画が進行中のゲドゥロン城をご紹介します。
建築途中の中世のお城って何?
「ブルゴーニュに建築途中の中世お城があるんだけど、家族と一緒に見に行ってみないか?」
パパの同僚に誘われたとき、「建築途中の中世お城」という意味がわかりませんでした。中世に建てられたけど未完成で終わったの?壊れたて放置されたお城を復元するの?その程度にしか考えていませんでした。
ところが実際行ってみて驚きました。
21世紀の現代に何も無い森の中に中世のお城をゼロから建てているのです。
しかも、800年前の人びとと同じように作るため、お城の建設地の半径5km以内で採れる材料のみで建てるのがポリシー。このプロジェクトは目的は「当時を理解するため」なんだそうです。
ゲドゥロン城にはオリジナルのお城がある
さて、ゲドゥロン城には元ネタにあたるお城があります。
そのお城はゲドゥロン城から13kmのChâteau de Saint-Fargeau。ただしこのお城の外観は中世ではなく、近世のフランスでよくみられるような、とんがり屋根のお城です。
15世紀ごろに、当時の所有者によって中世のお城部分をベースに建て増しがされた結果、元のお城の外観は完全に消えています。
ところが1979年にChâteau de Saint-Fargeauをフランスの資産家Michel Guyotが購入し、お城の調査をしたところ、現在の赤いレンガの壁の下に古い中世のお城が残っていることを発見しました。
お城の調査レポートの最後にはベースとなっている中世のお城のイメージ図が作られ、Saint-Fargeau城を再建したら面白いプロジェクトになるに違いない」と結ばれていました。この一言に魅了されたMichel Guyotは20年後、本当にお城を再建するプロジェクトを初めたのだとか。
こうしてゲドゥロン城プロジェクトは1997年に建築が始まり、1998年からは一般公開もされるようになりました。
40人の人力と馬のみで城を建てる
ではゲドゥロン城の建築プロジェクトを実際に見てみましょう。
現在、ゲドゥロン城の建築には40名のスタッフが携わっています。職人もいれば、ゲドゥロン城で働きながら技術を学んでいる人もいます。ゲドゥロン城に連れて行ってくれた同僚の説明によると、スタッフは元々ボランティアだそうですが、ゲドゥロン城の見学料や寄付からお給料は出ているのかもしれません。
お城を建てるための材料は周辺で採れた石と木材や草で作った縄のみです。石は大きく切り出した後、石工がさらにそれぞの壁に適したサイズに切り出します。もちろん電動カッターなどは一切使わず、ノミとトンカチで一つずつ石を加工します。石一つカットするのにどれだけの時間がかかるのかと気が遠くなりますね。
また、切り出した石ももちろん人力。木で作った滑車と歯車を使って、人間ハムスターよろしく人の力を使って持ち上げ、一つずつ石を積み上げていきます。さすがに石を運搬するのは人間では大変なので、馬車を使って運ぶことも。こうして実際に見てみると13世紀の人たちがどうやってお城を作っていたのかが良くわかります。
完成した母屋や塔の中は見学することもできます。
城の周りには村も建設中
あと6年で完成するといわれているゲドゥロン城ですが、中世の再現をしているのはお城だけではありません。お城を建てるための工房や家畜の小屋なども再現されています。
こちらは瓦工房。城の母屋の屋根に使われるレンガも一枚一枚、ゲドゥロン城の周辺で職人が作っています。このほかに草木染や籐のかごの製作所、それに少し離れた小川には小麦を引くための水車小屋も建設されています。ゲドゥロン城では城と一緒に城下町まで再現されていました。豚やガチョウなどの動物も飼育されていて、小さい子供も牧場感覚で楽しんでいました。
子どもにとってもわかりやすい城の建築過程
中世のお城を再現するゲドゥロン城プロジェクトですが、多くの子どもたちが学校のアクティビティや家族のピクニックで見学にきます。そのため、子どもたちにもわかりやすい展示の工夫がされていました。
まずは、こちら中世やルネッサンス期に見られる丸い天井や門をどうやって作ったかが体感できるパズル。大きな木のブロックを積み上げて、丸いアーチを作っていきます。
子どものころからどうやって丸い石を積み上げたのだろう?とずっと不思議だったのですが、これで私も謎が解けました。
左右から均等に石を積み上げていって、最後に要石でバランスを取るのですね。
天井のアーチの場合は、天井が完成するまで木で支えながら組み立てていきます。
単純なアーチでも実際組み立てるのは案外難しく、子どもと大人の3人がかりでようやく完成。ブロックなら比較的簡単ですが、重い石で良くあんなに精工に石を積んだなと改めてびっくりします。
小学校など十数人いれば丸天井をみんなで組み立てるアクティビティもやってくれるようです。
こうして実際にお城を建設している現場を見ると、まるで中世の世界に迷い込んだようで、絵などで見るよりも当時の様子を深く理解できる気がしました。
また、ゲドゥロン城の見学の楽しみは毎年、毎シーズン、お城の姿が変わっていくこと。ゲドゥロン城に連れてきてくれたパパの同僚は15年以上、毎年2~3回お城を訪問している言います。当時は2人の子どもを連れて見に来ていたのが、すっかり子どもたちは成人してしまったそうです。
さてさて、今なお進行中のゲドゥロン城プロジェクト、あと6年後に完成!とはいえ、今の段階まで20年かかったことやここが時間がのんびりしたフランスであることを考えると、まだまだ完成までには時間がかかりそうです。
もし可能なら、1年後5年後10年後と何度なく訪問し、ウォッチし続けたいですね。我が家はいつまでフランスにいるかわかりませんが、子どもの成長とともにゲドゥロン城の成長も見守っていきたいと思います。