オスロ 子連れ旅 フラム号博物館で子どもと冒険の神髄を学ぶ
ノルウェーの首都オスロといえば、ムンクの叫びが有名ですが、それだけではありません。
特に人類で初めて南極到達に使用されたフラム号は、100年前にいかにして人類が極地に到達したかを知ることができ、特に冒険心の強い男の子におすすめのスポットです。
今回はノルウェーのフラム号博物館についてご紹介します。
人類で初南極到達に使われた極地探査船
1911年12月14日、ノルウェー人のロアール・アムンセンは、先に到着していたイギリスのロバート・ファルコン・スコットの南極探査隊を追い抜き、人類で初めて南極に到達しました。
ノルウェーを出港して3年に渡る南極探査の際に使われたフラム号は、現在ノルウェイの首都、オスロのフラム号博物館に保管されています。フラム号は南極探査の前にも2度にわたる北極探査に出かけており、長い間氷の圧力に耐えられるように船底が丸く設計されるなど極地探査に特化した船です。
現在はオスロのフラム号博物館に保存され、当時の極地探査の様子を知ることができます。
実際に極地探索をしている気分を味わえる
フラム号博物館に行ってみて感じたことは文字通り五感で極地体験を体験できるということ。
フラム号を外から眺めるだけでなく、実際に甲板に上がったり、船室にはいったりすることができ、当時の極地探検の様子を見学することができます。
例えば、甲板の上ではプロジェクションマッピングと音を駆使して、あたかも南極に向かっている体験ができます。
甲板自体は揺れていないのに周りの形式が揺れるので、嵐に会って大波に揺られたり、南極の氷河に到達してじりじり進んだり、何となく実際に船が動いているような錯覚になります。
博物館の片隅には一見見落としそうな「警告」のマークが付きの扉が。この中に入ると、-30度の極地の寒さを体験することができます。
こちらは犬ぞりが主流になる前に主流だった、人間が引くそりを実際にひけるコーナー
アムンセン隊がスコット隊より早く南極に到達できたのはイヌイットたちから学んだ犬ぞりを駆使したからだと言われていますが、それ以前はヨーロッパ人の技術ではそりを人力で引くのが主流でした。
その重さ25kg!! 写真の左側の15kgまでなら私や小学生の子どもでも引けますが、25kgはびくともしない重さです。屈強な男性でも非常に重量の重いものを何100kmにもわたって引かなければならなかったのがいかに大変かを体験することができました。
この他に、あざらしの皮を触ったり、匂いを嗅いだりできるコーナーもありました。
北欧の博物館、美術館全般で感じたことですが、母国語が話す人が少ない分、あまり言葉に頼らない説明に工夫が凝らされていると感じました。これは、フランス語の解説や遊びが充実しているフランスとは対照的です。
そのおかげで英語もしゃべれない我が家の子どもたちでも身体も使いながら十分楽しむことができました。
アムンセン隊とスコット隊 勝敗を分けたもの
さてアムンセン隊の華やかな成功と必ずセットで語られるのがイギリスのスコット隊の悲劇の物語です。アムンセン隊より先に南極到達を目指していたスコット隊でしたが、後から突然やって来たアムンセン隊に先を越されたうえに、基地に戻る途中に力尽きて全滅してしまいます。
2つの隊がどのような経緯をたどったのか、デジタル展示で足跡も見ることができました。
ぐんぐん南極踏破に向かって快進撃を続けるアムンセン隊に対して、出発直後に雪上車が故障するトラブルで足止めされ、その後進んでは止まり、進んでは止まりと少しずつしか進めないスコット隊の動きは非常に対称的でした。
これは私の感想ですが2つの隊の明暗を分けたのは経験、準備、そして余裕だったように思います。
豊富な経験と入念な準備
まず経験と準備についてですが、フラム号では極地探検を実現するための様々な工夫の痕跡を見ることができました。
イギリスのスコット隊は大英帝国のミッションを背負った軍人集団だったのに対して、アムンセン隊は極地専門の探検家集団でした。
幼いころから北極到達を夢見ていたアムンセンは北極到達自体は先を越されてしまいますが、北極圏でイヌイットと寝食を共にしながら冒険の経験し、極地の過ごし方を熟知していました。そうした経験に基づいてアムンセンは移動の手段として犬ぞりとスキーを選択しています。
逆にスコット隊は当時の最新技術である、自動雪上車(戦車のようなもの)を持ってきますが、すぐに故障して使い物にならなくなってしまいます。また、寒冷地に強い馬たちもつれてきていましたが、やがて馬たちも寒さで全滅していまいます。
もう一つ大きな差は食料や衣服の調達方法。
アムンセン隊はアザラシを現地で狩り、生肉を得ていました。実は生肉にはビタミンが多く含まれているので、極度のビタミン不足で起こる「壊血病」を防ぐ効果があったそうです。
また、アザラシの皮で衣服も作っていました。
匂いはきついものの、極地の寒さでもしっかり守ってくれます。フラム号博物館では、アザラシの皮のにおいを嗅いだり毛皮を触ったりするコーナーもあり、子どもたちもその匂いや触感からこんな服を着ていたのかと驚いていました。
船には現地で狩りをするための道具や、新たに道具を作ったり修理したりするための部屋や道具も陳列されていて、いかに当時の冒険家たちが準備をして、厳しい冒険にでかけているかを知ることができます。
遊び心が生む精神的余裕
さて、アムンセン隊の食事で充実していたのは生肉だけではありません。なんと大量のビールもしっかり積み込まれていました。これはビール党にはたまりません、というか欠かせませんよね(笑)
3年にも渡る長い旅では、禁欲的では持たず、嗜好品も欠かせないのでしょうね。
またフラム号の展示でひときわ印象的だったのは、各船員の部屋に飾られた持ち物に必ずと言っていいほどダーツやチェスなどのゲームが持ち込まれていたことです。現代だったらスマホゲームでしょうか(笑)
これは当時の船乗りには常識だったのかもしれませんが、長い旅の辛さや孤独を紛らわせるものは意外にも仲間たちとの遊びのひと時だったのかもしれません。
ある本ではスコット隊は軍隊風の規律的な動きを重視していたのに対し、アムンセン隊はクルーが横並びのチームビルディングを重視していたという指摘もあります。経験豊富な冒険家たちはお互いの上下関係より、仲間としての横の人間関係を重視していたのかもしれません。
無数の穴が開くダーツを見て、海か氷しかない厳しい環境で、一体どれだけの日数をこの船室で遊び、笑い、励まし合ったのかと思うと、なんだか胸が熱くなります。
なお、フラム号博物号ではフラム号だけでなく、アムンセンの前に北極探検をしたノルウェーの大冒険家でフラム号の本来の所有者であるフリチョフ・ナンセンや南極到達後のアムンセンの飛行船を使った冒険などの展示も見ることができます。
近くにヴァイキング博物館もあるので、一日、冒険に浸ってみるものも面白いのではないでしょうか?