夫(妻)が海外赴任したら働くことをやめるべき?世界のビジネスパーソンの選択

ある日突然降ってわく「夫(あるいは妻)の海外赴任」という問題。「子どもを産んでも何とか生産性をあげて必死に仕事をしてきた。その頑張りが認められて昇格だ!管理職育成の話もそろそろ出てきたぞ」とようやく仕事が軌道に乗り希望が見えてきたところで、突然ガラガラガラとおろされるシャッター。家族の海外赴任は栄転だと喜ぶ気持ちもあるものの、これからどうしようと目の前が暗くなる瞬間でもあります。

退職か休職か・・・。

非常に悩ましい問題ですが、そんな日本人帯同者の悩みを蹴散らすように、世界のビジネスパーソンは「現地で働く」という選択をしています。

今回は、夫の赴任先で参加する機会を得た「帯同者のためのキャリアセミナー」をご紹介します。

目次

パートナーの海外赴任先でも働くという選択

先日、Internet Dual Career Network(IDCN)という団体が主催するパートナーの海外赴任に帯同している外国人向けのキャリアセミナーに参加することができました。IDCNは2011年にNestle,Philip Morris International、EY、L’Oréal、Cargillといったヨーロッパに本拠地を置く企業が設立した団体で、世界にヨーロッパ、アメリカ、アジアに15の支部があります。

各支部では現地に居住する外国人パートナー向けにイベントを開催し、「どうやって現地で仕事を探すか?」「どんな会社が外国人を積極的に採用しているか?」などの情報提供だけでなく、実際にリクルートしている企業の人事担当者と話す機会や、現地で仕事を見つけたメンバーの体験談を聞くこともできます。

私が参加したイベントではパリ在住の外国人約100人が参加しました。参加者の8~9割がヨーロッパ系の中、アフリカ系や中東系、アジア系の参加者もいました。アジア系は私を含め5名程度で、全体の中では非常に少ない割合でした。

海外で仕事を得るために大切な2つのこと

今回イベントに参加して非常に印象に残った言葉が2つあります。それは”Be Flexible(柔軟であれ)”と”Adapt(適合しなさい)”です。それぞれIDCNを通じて仕事を見つけた二人のメンバーが体験談の中で語っていた言葉です。この二人のケースを見ながらどうやって外国で仕事を得ることができたのかをご紹介します。

ケース1:これまでのキャリアが全く役に立たなかった

ケース1はセルビアからパリに来た元弁護士の女性の話です。

この女性は夫に帯同して二人でセルビアからパリに移住してきました。まだ子どももいないことから、パリで働きたいと思い、仕事を探し始めたそうです。ところがそこでぶつかったのが「フランス語の壁」と「学歴の壁」。フランスは日本と同じく、外国人労働者に対して非常に閉鎖的な社会で、完璧なフランス語が話せ、フランスで通用する学歴が無いと就職できません。彼女はセルビアでは弁護士の資格を持っていましたが、セルビアの経歴は何の役にも立たないことがすぐにわかったそうです。またフランスも全く話せない状態でした。当然、何十社応募しても面接にすら進むことができませんでした。

そこで彼女は弁護士の経歴を生かして働くことをあきらめ、フランスでも通用する学位を取り直しました。それはイギリスの大学の通信講座でどこの国でも使える「ヒューマン・リソース(人事マネジメント)」の学位を取ることにしたそうです。イギリスの大学の学位であれば、高い英語力を保有することも証明できますし、人事ならどこの会社にもあるので、選択肢が広がります。ようやく1社から面談の機会を得ることできたそうです。そしてそのたった1社でトレーニーとして働き始め、半年後には正社員になることができました。

「人事に興味があったわけではありません。必要だからその学位を取りました。経験も全くありませんでしたが、私は学位も持っているし、それをやりきることができる、とアピールすることが大事でした。過去の経歴にとらわれていては何も進みません」

そう彼女は言い切ります。

彼女は弁護士という仕事に誇りを持っていましたが、法律は結局その国の中でしか通じません。この先弁護士を軸に仕事を探しても、また働く国が変わったら自分のスキルは通用しなくなる。そう考え古いキャリアを捨てて新しいスキルを手に入れ、彼女はキャリアチェンジを果たしました。

話の中で”Be Flexible”と何度も口にする彼女の言葉印象的でした。

ケース2:苦労してみつけた就職先で文化や言葉の壁にぶつかった

ケース2はこの5年の中で3か国働く国を変え、会社を変えたスペイン人夫婦の話です。

二人はスペインでMBAに通う中で出会い結婚をしたそうです。結婚間もなく旦那さんの希望で日本に移住し仕事を探しました。でも、フランス以上に外国人に閉鎖的な日本で仕事を探すのは至難の業。4か月就職活動をして全くみつからず、「もうだめだ。帰国しよう」と決意しかけた時、ようやく1社日本メーカーへの就職ができました。ところがせっかく入社したのに、半年間職場の日本人は誰一人話しかけてくれなかったそうです。日本語が壁になり、うまく職場のメンバーとコミュニケーションをとることができませんでした。

思い悩んで旦那さんは人事面談の時にポジション転換を願い出たそうです。新しいポジションは「グローバルセクション」でした。そして「社内転職」を機に新しい職場はその日本企業のアメリカ支社となりました。ちょうど赤ちゃんが生まれた頃でしたが夫婦はアメリカに移住しました。

アメリカでの仕事は順調でしたが、たまたま縁あって今度はヨーロッパ転勤が決まったそうです。そこで今度は一家でパリに移住しました。フランスでは赤ちゃんが預けられる年齢に達していたので、奥さんもIDCNで仕事を見つけて今は夫婦共働きだそうです。フランスも日本ほどではありませんが、欧米人にとっても言葉や文化の壁がある国です。ただ、今回は日本での経験もあったため、早く新しい環境に馴染めたそうです。また、前回の反省を活かし「英語が公用語」の環境で働いていることもプラスになっているようです。

このスペイン人夫婦の話で心に残ったのは「適合しなさい」という言葉です。

「世界3か国で働いてみてわかったのは、文化や言葉はそれぞれ違うけど、人間の考え方や行動は基本的にどこの国であっても変わらないということ。日本でも誰も話しかけてくれなかったけど、それは「邪魔しちゃ悪いかな?」という配慮だったいうことが後でわかった。僕は楽しくみんなと話したかったんだけど(笑)それでもプライベートで話してみると日本人も僕たちと考えていることはそう変わらないということがわかった。だから日本での生活も嫌な思い出でではない。大切なことは全く違う環境であっても適合しようとすること。自分の考えに固執するのではなく、その国の考えを受けれいれること。そうすれば人間のふるまいはそう変わらないんだから、きっとうまくやれるはず」

これを聞いて、日本の外国人にとっての壁の高さを申し訳なく思いつつも、実際に外国で暮らしてみて「適合しなさい」という言葉が身にしみます。もちろん初めての外国暮らしはうまくいかないことだらけですが、それでも自分がその国に合わせてくると段々現地の人が理解できるようになります。まずは新しい環境に適合する努力をする。そしてうまくいかない時は少しずつ環境を変えていくということが大切だと学びました。そういう意味でこのケース2は「柔軟であれ」と「適合しなさい」の両方を体現しているケースといえます。

このように世界のビジネスパーソン達はパートナーの海外赴任で一つの可能性にとらわれずに柔軟に考え、夫婦揃って働く環境を手に入れているのだ、ということを今回のセミナーを通して学ぶことができました。