ブックレビュー 『祇園精舎(声にだすことばえほん)』

目次

意外と知らない祇園精舎の世界観

海外に来ても日本語の本を探しては子どもたちに読み聞かせをしているのですが、お兄ちゃんが通う小学校で何気なく借りた『祇園精舎(声にだすことばえほん)』が思いのほか面白かったです。

「祇園精舎の鐘の声・・・」で始まる一説は言わずとしれた平家物語の冒頭の一文です。一定年齢以上の日本人なら、ほとんどの方が一度は聞いたことがあるのではないでしょうか?でも学校などでとりあえず覚えたものの、中身はよく知らない・・・なんてことありますよね。実は私も「祇園精舎」や「沙羅双樹」などの言葉は知っていても、それがどんなものなのかは全く知らないし、そもそも平家物語の中身自体もよくわかっていない・・・という恥ずかしい状態です。

そのように知っているようで知らない平家物語の祇園精舎ですが、この絵本ではビジュアルでその世界観を非常にわかりやすく知ることができます。

ちょうど子どもたちがお世話になっている国語の通信講座でお兄ちゃんが「祇園精舎」の一説を書き取りしていたこともあり、絵本として面白いか心配はありましたが、思い切って借りてみることにしました。

ビジュアルで見る祇園精舎

さて、本を開くと琵琶法師が祇園精舎を歌い上げていきます。各一説にあわせて、インドにあるという祇園精舎の建物、沙羅双樹の木など絵を見ることで「なるほど、こういうものであったか」と大人の私も今までわからなかったものがより具体的にイメージすることができました。

また、ただ暗唱するだけでは子供にわかりにくいであろう、「遠く異朝をとぶらへば・・・」以降についてもイラストが入ることで、平将門など歴史上の人物が悪行によって身を滅ぼしたことがわかりやすく理解でいるようになっていました。

それぞれイラストが入ることで意味が理解しやすくなり、また最後に編者の斎藤孝先生の現代語訳も非常にわかりやすく、これまでよりはっきりと祇園精舎の世界観を頭の中で思い描くことができるようになりました。

動画も一緒にみるとさらに面白い

個人的に面白いなと思ったのは、絵本の中に物語を語る琵琶法師だけでなく、ちゃんと聴衆が描かれていることです。テレビや映画館もない時代に、街角で物語を弾き語りする琵琶法師のまわりに子どもも大人も集まってみんな話を聞いて楽しんだいわば娯楽の一つだったのですね。絵本を通じてそうした昔の庶民の生活も感じることができました。

さらに琵琶法師が語る祇園精舎を聞いてみたい!ということでYouTubeで検索すると、いくつか出てきました。

こうした琵琶の音とともに語られる「祇園精舎」は迫力があり、特に年長の次男が面白がって見入っていました。昔の子どもたちもこうして、ドラマを見たり、お話しを聞く感覚で琵琶法師の歌を目を輝かせて聞いていたのでしょうね。

動画を見終わった後には、絵本を読みながら「ぼくが歌う!」とたどたどしいながらも「祇園精舎」を声に出して読んでいました。

嬉しい相乗効果で、ポーカーフェースで聞いていたお兄ちゃんも、弟が吟じているとつられて声に出して一緒に音読をしていました。単に名文として暗記するのも良いのですが、こうして絵本を通して世界をイメージし、その物語を盛り上げる「歌」も合わせて表現しながら「祇園精舎」を読むと、口伝で伝えられてきた物語を感じることができるような気がします。

 

いや~、せっかく本を借りてきたものの、「祇園精舎」の文がそのまま乗っているだけだし、あんまり子どもたちは食いつかないかなあと思っていたものの、なんのなんのですね。元々、口伝で伝わったものだけあり、そもそも読んでいても聞いていても心地よい美しい洗練された日本語と、絵本、琵琶法師の動画とどんどん祇園精舎の世界の探求が広がっていきました。

ちなみにその日の夜の寝る前のお話は「耳なし芳一」。ちょっとこわーーいお話ですが、祇園精舎から派生して平家物語×琵琶法師つながりで子どもたちも興味津々で聞いてくれたように思います。

もし機会があったらお子さんと絵本『祇園精舎』で古の日本にタイムスリップしてみてはいかがでしょうか?