静かにするって誰が決めた? スウェーデンの「遊べる図書館」

図書館は大好きだけど、子どもを静かにさせないといけないのは何だか緊張する。子どもに新しい本を探してあげたくても本がたくさんありすぎて探すのが大変。そうこうするうちに何となく図書館から足が遠のいてしまう・・・

そんな経験、皆さんもあるのではないでしょうか?

スウェーデン旅行中に出会ったマルメの市立図書館ではそんな図書館の常識をひっくり返す場所でした。

今回は旅先で偶然出会った子どもが “遊びたくなる図書館” をご紹介します。

目次

子どもが遊びたくなる図書館

スウェーデン、マルメ市の子ども図書館。ポップなカラーリングで子どもがリラックスできるデザインになっている。

スウェーデンのマルメという街をご存知でしょうか?スウェーデン第三の都市で、海を挟んでデンマークのコペンハーゲンから電車でわずか30分の街です。元々は造船で栄えた街ですが、2000年ごろから街のマルメ大学を中心に国際都市としての再開発が進み、多くの若者や外国人が住む街になりました。現在は人口34万人のうち、38%が35歳以下で12歳以下の子どもが4万5千人暮らしています。

そんなマルメ市の図書館の子どもコーナーは非常にユニーク。なんと図書館の中に、よじ登れる壁やジャンプしたくなるソファ、くぐりたくなるトンネルなどの思わず子どもたちが遊び始めたくなる仕掛けがいくつもあるのです。まるで図書館というより“遊び場”です。

子ども図書館のメイン口。これとは別に子ども専用の入り口もある。

しかも、周りの子どもたちが多少騒いでも大丈夫なように、図書館は大人のエリアとはしっかりと隔離され、静かに読みたい子どものためにら篭って本を読める小さな小部屋がいくつもあります。

我が家の子どもたちも図書館に着くなり、目を輝かせて、「ママー!こんなお部屋もあったよ、こんな場所もあったよ」と図書館中の部屋を探索してまわりました。

図書館内の本棚兼隠し部屋がいつくもあり

子どもとの対話で図書館をリニューアル

マルメ図書館では1年前のリニューアルされた際に“本”ではなく”体験”を中心すえて、どうやったら子どもたちが図書館の中を動き回って新しい本と出会えるか?を考えたのだそうです。

以下の記事でこの図書館のコンセプトをどう作ったか、そのプロセスを知ることができました。

when staff members at Sweden’s Malmö Public Library found out they would be moving their children’s area to a different part of the building, they saw an opportunity to reshape the experience of their young users and ensure their continued success in serving their audience in future years. Instead of a “books-first” philosophy, staff thought about an “experience-first” approach to the library. How do children roam around the space and find new materials? How do they think about topics that interest them?

最初の疑問は「どうやって子どもたちは好きな本を見つけるのか?」

そのために子どもたちとのワークショップを行い、対話を重ねることで図書館のあり方を模索しました。

最初のワークショップでは子どもたちが大好きな本を20種類集めて、5つにカテゴリー分けさせました。そして、どうやって子どもたちが新しい本をみつけるかを観察したのです。

すると、従来の本の分類は全然役に立たないことがわかりました。子どもたちと本の新しい出会いを促すためには従来とは異なる本の整理方法が必要そうです。

二番目のワークショップは子どもたちに好きな本や好きな遊びの絵を描いてもらいました。さらに、本棚を好きにデコレーションしてもらったのだそうです。

これにより、大人たちは子どもたちが思い描いている世界を目に見える形にすることができました。

次のステップはさらにイメージを具体化。
様々な言葉や絵が書いてある32の紙を用意し、それぞれの絵にどんな言葉をイメージするか聞きました。さらに子どもたちにも新しい言葉も足してもらいます。この言葉たちが、新しい本の分類やサブ分類の元になっていきます。

最後のワークショップでは、スタッフが分類するのが難しいと感じた本たちをどこに置くべきか子どもたちに投票してもらいました。投票の時にはほかの子の意見に左右されないように、全員に目を閉じてもらい手を挙げてもらう徹底ぶりです。

一連のワークショップの結果、45の新しいカテゴリーが生まれたのだそうです。

子どもたちによって新たに作られたカテゴリ

  • ファンタジー
  • 昔の話
  • 私の体
  • どうやって動くの?
  • 動物
  • ペット
  • 人生
  • 技術
  • スポーツ

と言った子どもによる新しいカテゴライズが生まれました。

こうして子どもたちの声を反映して新しくできた分類で4万冊の本が新しい分類で振り分けられました。

子どもが自然と動き出すデザイン

図書館の模型。それぞれ異なるコンセプトでデザインされている。

本が新しく分類されただけでなく、図書館のデザインも子どもが楽しく過ごせるようにマルメ在住のChild Culture Desiner のHelena Yhanによって一新されました。

まず、エントランス。子ども用の秘密の入り口があり、図書館に入る前からワクワクが始まります。

エントランスから入ると最初は森の部屋。木に見立てた本棚には様々な本が手に取れりやすく置かれ、また同じ部屋に司書さんがいる本貸し出しコーナーもあります。

この森の部屋を中心に、火山の部屋、虹の部屋、坂の部屋、夜の部屋と個性的な部屋が沢山用意されています。それぞれに雰囲気が全く異なる部屋で子どもたちはお気に入りの場所を見つけて本を読んだり、遊んだりして過ごしていました。

こんな図書館なら毎日だって通いたくなりますよね。寒い北欧の冬でも物語の世界に浸り、楽しい時間を過ごすことができそうです。

図書館を文化の中心にする

また図書館内には工作の部屋や、シアターもありました。ここで、本の読み聞かせ以外にも様々な催し物が行われるようです。

面白いところでは2〜4歳の小さな子どもたちの読み聞かせにドラック・クイーン(いわゆる男性が女装している人)を起用したというニュースもありました。

これは多様な国籍、人種、言語の人が集まるマルメ市ならではで、トランスジェンダーについても理解を深めようという試みです。まず小さいな子どものうちからこうした人たちに触れ合うことで、なんだかわからない人たちを「怖い」と思う気持ちを取り払うことが目的なのだそうです。

たしかに、日本でもとある保育園の責任者がいわゆるオネエと呼ばれるような人でびっくりたことを思い出しました。

でもその方は男の子の気持ちも女の子の気持ちも非常によく理解していて、その方ぎ中心となって用意されているオモチャもとてもセンス良く、また子どもたちにも人気なようでした。子どものうちからLGBTの人が当たり前にいる環境はむしろとても良いことです。また母性豊かな男性の職業として保育園士はぴったりだと感じました。

保育士と言わないまでも読み聞かせにドラック・クイーンを起用する新しい試みは今後、ほかの図書館でも広がっていくかもしれません。

というわけで、たまたま入った図書館で思わず発見した未来の図書館の形。10年後は日本でもどこの図書館でも子どもたちの楽しい声がする、そんな時代になったら良いなと思いました。